ダニエル書11章21節~35節

 

21節:彼に代わって、一人の卑劣な者が起こる。彼には国の権威は与えられないが、不意にやって来て、巧みなことばを使って国を奪い取る。
22節:彼の前では、洪水のような軍勢も、契約の君主さえも一掃されて打ち砕かれる。

 

「卑劣な者」・・アンティオコス4世
彼アンティオコスⅣは、セレウコスⅣと兄弟で、王セレウコスⅣがヘリオドラスに暗殺され、アンティオコスⅣが共同支配者となったが、ヘリオドラスが摂政となって、権力を揮っていた。
「不意にやってきて、巧みな言葉を使って」・・巧みな言葉は「陰謀」とも訳せる。
アンティオコスⅣはヘリオドラスを殺し、その少年王も暗殺して、陰謀を実現して王となった。
彼は軍事的な力が強く、エジプトの局地で数多く勝利したとのこと。
「契約の君主」・・イスラエルの大祭司オニアスを追放し、その弟ジェイソン(ヤソン)にその地位を売る。以降、エピファネスは事ある毎にイスラエルを迫害する。

23節:彼は同盟を組んだ後で欺き、少ない人数で勢力を増していく。
24節:彼は不意にその州の肥沃な地域に侵入し、彼の父たちも、父の父たちもしなかったことを行う。彼は、そのかすめ奪った物、分捕り物、財宝を、自分たちの間で分け合う。彼は計略をめぐらして要塞を攻めるが、それは、時が来るまでのことである。

 

23節
強さの成長を示す箇所。
「同盟を組んだ後で欺き」・・諸国と同盟を結んでは裏切って攻め取り、軍事力を増し加えて行く。
エジプトと、妹クレオパトラ1世との家族の絆を利用して、エジプトと関係を構築していた。
24節
同盟関係がありながら、不意に侵略する欺きを行う。
彼は領土を拡張し、肥沃な土地(エジプトと思われる)にまで至ります。(敵を攻め落とす装置も考案して勝利し領地を拡大)
彼の父、祖父は勝利したら贅沢をしたが、彼はそれを蓄え、その財を勝利のための買収に用いた。
「時が来るまで」・・勝利は12年間続いた。それは神のご計画。→強さも富もエジプト侵略のため。政治的、戦略的には優秀な人物と推察できる。

25節:彼は勢力と勇気を駆り立て、大軍勢を率いて南の王に立ち向かう。南の王も非常に強い大軍勢を率い、奮い立ってこれと戦うが、抵抗することができなくなる。南の王に対して計略をめぐらす者たちがいるからである
26節:彼のごちそうにあずかる者たちが彼を滅ぼし、彼の軍勢は押し流され、多くの者が刺し殺されて倒れる。
27節:この二人の王は、心で悪事を謀りながらも、一つの食卓に着いて、まやかしを言い合う。しかし、成功はしない。終わりは、まだ定めの時を待たなくてはならないからだ。
28節:彼は多くの財宝を携えて自分の国に帰る。彼の心は聖なる契約に敵対して事を行い、彼は自分の国に帰って行く。

 

25~26節
北の王アンティオコスⅣは南の王プトレマイオスⅥに戦いを挑む。
南の王が劣勢になる。その原因は北の計略に嵌まってしまうから。
「彼のごちそうに与る者たち」・・プトレマイオスのカウンセラーたち。
彼らはプトレマイオス6世を裏切り、アンティオコスⅣに負ける結果をもたらし、多くの兵士が戦死した。
27~28節
「悪事を謀りながらも一つの食卓に着く」・・プトレマイオス朝にて内紛(6世と8世)が起き、アンティオコスⅣはプトレマイオス6世を支持して、協力関係を築きエジプト支配を目論んだが、内紛は収まり共同統治となり、アンティオコスⅣの目論見は外れた。→まだまだ終わらぬ歴史の展開。
彼は、莫大な戦利品を得るも、主目的は達せず、帰途のイスラエルを蹂躙して、自国に引き上げた。

29節:定めの時に、彼は再び南へ攻めて行くが、この二度目は初めの時のようではない。
30節:キティムの船が彼に立ち向かって来るので、彼は落胆して引き返し、聖なる契約にいきりたって事を行う。彼は帰って行って、その聖なる契約を捨てた者たちに心を向けるようになる。
31節:彼の軍隊は立ち上がり、砦である聖所を冒し、常供のささげ物を取り払い、荒らす忌まわしいものを据える。

 

「定めの時」・・BC168年のエジプト侵攻を指す。
エピファネスは3度のエジプト侵攻を実施したが、預言は初回と最後の侵攻について語っている。
「キティム」・・キプロスとイスラエルの西側の、ローマと繋がる地域の船団→ 2017年度版聖書地図1又は2参照。
ローマもエジプトを狙っていたので、シリアのエジプト併合に反対してキティムの船団(ローマ)が抵抗した。
エピファネスは屈辱的撤退を余儀なくされる。ローマの強さに屈する。
エジプトとシリアの抗争鎮圧のため派遣されたローマ領事ガイウス・ポピリウス・ラエナスの脅しにも似た勧告に屈伏した。
世界の覇権を狙うエピファネスは、エジプトとの併合が最重要テーマだった。この併合でローマに対抗できると考えていたが、その思惑が打ち砕かれ、その失意は相当であったことは想像に難くない
彼は失意の下に帰国し、その悲しみのはけ口を「聖なる契約」イスラエルに向ける。


 

彼はヘレニズム意識が強く、イスラエルには嫌悪感を持ち、徹底した迫害をもって神を冒涜する。
大きな失意のはけ口として、また、完全なる価値観の違いにより、迫害はエスカレートして行く。
執拗な迫害に、ユダヤの民の中に背教者、棄教者が出てくることに気付く。(親へレニズム思想)
エピファネスはそれら背教者らを用い、民を支配した。(違法に据えられた大祭司メネラオスの影響)
エピファネスの迫害ゼウス神の設置、豚のささげ物、汚れた動物、安息日の禁止、神殿での売春、性的儀式など
エピファネスは徹底してユダヤ人に律法を捨てることを強制した。その中には背教者が多く出た。
その結果、神殿や裁判所、祭壇などが、これまでとは異なった忌まわしい状態となった。

32節:彼は、契約に対して不誠実にふるまう者たちを巧言をもって堕落させるが、自分の神を知る人たちは堅く立って事を行う。
33節:民の中の賢明な者たちは、多くの人を悟らせる。彼らは、一時は剣にかかり、火に焼かれ、捕らわれの身となり、かすめ奪われて倒れる。
34節:彼らが倒れるとき、彼らへの助けは少なく、彼らにくみする者には巧みなことばを使う者が多い。
35節:賢明な者たちのうちには倒れる者もあるが、それは終わりの時までに、彼らが錬られ、清められ、白くされるためである。それは、定めの時がまだ来ないからである。

 

エピファネスは自分に従う者を重用し、民から搾取させ全体を支配した。
しかし、正しい者(律法に忠実な者たち)がいた。彼らが立ち上がり、マカバイ戦争が起こった。
エピファネスは自国から軍隊を送るが、マカバイ側がことごとく勝利する。
「多くの人を悟らせる」・・新共同「多くの人を導くが、・・」
信仰の人は多くの人を導くが囚われ処刑される。導かれた者は実は不誠実で、結局のところ彼らを助ける者は少ないのが現実である。
こうして正しい信仰の人は倒れるが、精錬され、清くされ、白く純粋化される試練の時である。最大の試練ではない。
最大の試練は「終わりの時」として、神が用意されてる。すなわちエピファネス以上に迫害する者の登場がある。

 

マカバイ戦争の影響

アンティオコス4世エピファネスはヘレニズム思想家であり、イスラエルの神権政治を嫌悪する者だった。
当時の大祭司オニアスに変わり、非正統のヤソン(オニアスの弟)の莫大な貢納金によりその地位を与えヘレニズム化を推進させ、更にメネラオス(神殿総務長の家系、非正統)がそれを上回る貢納金で、大祭司となった。
エピファネスがエジプトで死んだとの誤情報に惑わされ、ヤソンがメネラオスを攻撃するという内乱が起きたが、遠征中のエピファネスがヤソン側を反乱軍として鎮圧した。
神殿、ユダヤ人の殺害、奴隷獲得とともに、律法に従う生活を禁じ、違反者は即死刑とした。祭壇にはゼウス神を立てた。
こうした背景の中、ユダ・マカバイを中心とする5人の兄弟が決起して、マカバイ戦争が起こり、BC165年、エルサレム、神殿を奪還して清め、再奉献した。
その後BC142年にイスラエルは事実上の独立国となる。
BC165年12月の神殿の清めを記念して、「ハヌカの祭り」が毎年開催されている。
この戦争(反乱)は、旧約と新約の移行期に発生しました。この反乱の影響、意味について一考してみてください

 

試練の受け止め方

試練には様々な種類があり、また、試練を受ける人の感受性も様々だと思います。
ある人にとっては、「そんなの試練じゃないわ!」というけれど、私にとっては死にそうなぐらい大変だったとか。その逆もある。
聖書を通して、試練とは、神が与えてくださる成長のプロセスであると知ったとき、なるほどと合点が行きました。
神はその人にあった試練がその人に訪れるのを赦しておられる。となれば、心の持ち方も変わる。
最初は、その試練に対応するのが精一杯だが、次第にこれは成長のためと考えると、自分の欠点に気付ける。
更に、少々の試練なら乗り越えてやる!となり、遂には、成長させてくださる神の愛に感謝するようになる??
思うことは、常に神と共に歩んでいることをどこまで意識できるかという事。
ちょっとした試練でも、大きな試練でも、それは神の成長の促しと気付くことが、大事なポイントではないでしょうか。
神に全幅の信頼を置くからこそ、神は試練を乗り越えさせてくださるのです。

「もしあなたが苦難の日に気落ちしたら、あなたの力は弱い。」 箴言24:10


2024年08月22日