ダニエル書8章1節~14節
8章の背景
ベルシャツァル王の第3年はBC551年。ダニエルが4つの獣の幻を見せられた時から2年後、再びあの幻の詳細がダニエルに示されます。ダニエルは69歳前後。原書では、8章からヘブル語に表記が変わります。
1節:ベルシャツァル王の治世の第三年、初めに私に幻が現れた後、私ダニエルにもう一つの幻が現れた。
2節:私は幻の中で見た。見ていると、私はエラム州にあるスサの城にいた。なお幻を見ていると、私はウライ川のほとりにいた。
ここからヘブル語に表記が変わります。(ダニエル、イスラエルの民、限定ということか)
時はベルシャツァル王の第3年(BC551)→およそ2年経過して2回目の幻の体験
バビロンにいるにもかかわらず、幻の場所は、エラム州のスサの城。
さらにその町に流れるウライ川のほとりにいた。
ウライ川:町に流れる人造の運河と考えられている。
スサはメド・ペルシア帝国の首都。
3節:私が目を上げて見ると、なんと、一匹の雄羊が川岸に立っていた。それには二本の角があって、この二本の角は長かったが、一本はもう一本の角よりも長かった。その長いほうは、後に出て来たのであった。
4節:私はその雄羊が、西や、北や、南の方を角で突いているのを見た。どんな獣もそれに立ち向かうことができず、また、それから救い出す者もいなかった。雄羊は思いのままにふるまって、高ぶっていた。
ウライ川の川岸に立つ一匹の雄羊。長短の2本の角。
メド・ペルシア帝国の意。初めは小さいペルシア国がメディアを覆うことから、長い角がペルシアの王。
西方(バビロン地方)、北方(カスピ海)、南方(ペルシア湾)の支配。
その進撃は、向かうところ敵なしの状態。
勝利の積み重ねは人を傲慢に導く。(神格化)
5節:私が注意して見ていると、見よ、一匹の雄やぎが、地には触れずに全土を飛び回って、西からやって来た。その雄やぎには、際立った一本の角が額にあった。
6節:この雄やぎは、川岸に立っているのを私が見た、あの二本の角を持つ雄羊に向かって、激しい勢いで突進した。
7節:見ていると、この雄やぎは雄羊に近づき、怒り狂って雄羊を打ち倒して、その二本の角をへし折ったが、雄羊にはこれに立ち向かう力がなかった。雄やぎは雄羊を地に投げ倒して踏みつけた。雄羊をこの雄やぎから救い出す者はいなかった。
西から出る新たな帝国→ギリシア帝国
地には触れずに全土を飛び回る→圧倒的な移動力と支配力
強力な一本の角→アレキサンダー大王
(BC356~323)、32歳の若さで死去。在位は13年間。
その制圧力は凄まじく、メド・ペルシアを圧倒的な強さで倒した。
その後、各地を征し、ギリシア文化を世界に広めた。
ギリシア(ヘレニズム)文化の浸透は、言語的、地理的に後のキリスト教世界展開の礎となった。
アレキサンダー大王
・アリストテレスが家庭教師。その時の学友は、将軍となり彼を支える。
・戦術、戦略の天才と言われ、インドまで制圧。部下の要請で引き揚げた。
・バビロンに戻り、その時熱病で逝った。
・アリストテレスとは、深い付き合いをしていた。
8節:この雄やぎは非常に高ぶったが、強くなったときにその大きな角が折れた。そしてその代わりに、天の四方に向かって、際立った四本の角が生え出て来た。
9節:そのうちの一本の角から、もう一本の小さな角が生え出て、南と、東と、麗しい国に向かって、非常に大きくなっていった。
最盛期に崩御するアレキサンダー大王。32歳。
彼は自分を神格化し、傲慢になっていた。
その後の後継者争いの戦いが始まる。(ディアドコイ戦争)
そのうちの一国とはセレウコス朝シリア、その王はアンティオコス・エピファネス。彼は南→エジプト、東→メソポタミヤを攻めた。
この王の名は、『神の顕現』の意味。エジプトの侵略後、『麗しい国』イスラエルを攻める。
四本の角(4分割の国):エジプトのプトレマイオス王朝、シリヤのセレウコス王朝、マケドニヤのアンティオゴノス王朝、小アジアのフィレタエルス王朝(リュシマコス→フィレタエルス)。
・後にシリアではバクトリア王国との争いも発生している。
10節:それは大きくなって天の軍勢に達し、天の軍勢と星のいくつかを地に落として、これを踏みつけ、
11節:軍の長に並ぶほどになり、彼から常供のささげ物を取り上げた。こうして、その聖所の基はくつがえされた。
12節:背きの行いにより、軍勢は常供のささげ物とともにその角に引き渡された。その角は真理を地に投げ捨て、事を行って成功した。
イスラエルとその神を蔑ろにし、自らを神として、冒涜の限りを尽くすエピファネス王。
天の軍勢→エピファネスの戦いの対象としてのイスラエル。軍の長→神。
神殿の祭壇を破壊し、異邦の神ゼウスを置き、常供の捧げものや行事を廃止し、聖所の祭事は全て覆し、エピファネスの好む行事が行われた。
特筆すべきは、この時イスラエルにゼウス神を崇める者たちが現れた。→「軍勢は常久・・渡された。」
神格化したアンティオコス・エピファネス王は、エジプト侵略がローマの影響で中途となり、その帰りにイスラエルを蹂躙する。処刑と搾取は激しく、処刑者は8万人、捕囚4万人、おんな子供4万人を奴隷売買。
エピファネスのイスラエル征服は、成功した。(ように見えた)。
宗教弾圧:
・これまでにない非道なまでの宗教弾圧。しかし、イスラエルがマカベア戦争にて勝利。
・エピファネス王は、終末の反キリストの型とされていることに注目。
13節:私は、一人の聖なる者が語っているのを聞いた。すると、もう一人の聖なる者が、その語っている者に言った。「常供のささげ物や、あの荒らす者の背き、そして聖所と軍勢が踏みにじられるという幻は、いつまでのことか。」
14節:すると彼は答えて言った。「二千三百の夕と朝が過ぎるまで。そのとき聖所の正しさが確認される。」
二人の御使いが登場する。二人は語り合っている。
一人が質問する。
今見ているこの幻は、いつまで続くのか?
「捧げものや行事が奪われ、祭壇は荒らされ、聖所、聖徒たちが蹂躙されている状態はいつまで続くのか。」
他の一人が答える。
「2300の夕と朝が過ぎるまで続く。しかし、必ず聖所は回復する。」
およそ6年半である。朝、夕ということで、1日2回→1150日・・約3年半の説もある。
何が起点となってのことかは、今のところ不明。
アンティオコス・エピファネスとマカベア戦争、そしてハヌカの祭り
アンティオコス4世エピファネス
紀元前2世紀のセレウコス朝シリアの王(在位:BC175年~BC163年)。
プトレマイオス朝を圧倒したことでユダヤを支配下に治めたが、やがてユダヤの人々による反乱、マカベア戦争を引き起こすことになりました。
マカベア戦争
アンティオコスはユダヤに対して圧政を持って臨み、エルサレムを破壊し、多くの敵対者を処刑。これに対してユダヤ人たちはユダ・マカベアの一族であるハスモン家をリーダーとして立ち上がり、アンティオコスの派遣した軍を撃破するなど各地で奮闘しました。アンティオコスは怒りにかられて自らユダヤ侵攻軍を率いたが、道半ばにして急死。紀元前163年のことです。
ハヌカの祭り
BC164年キスレウ月の25日(現在の12月頃)、マカベアは神殿を奪還し、奉献しました。その記念の祭りが『ハヌカの祭り(光の祭り)』です。ハヌキアという燭台に蝋燭を灯します。子供達には、独楽や金貨(チョコレート)がプレゼントされます。
預言者としての使命
ダニエルは預言者としての使命を受けて、あまりの情報の多さに少々うろたえています。
年齢は69歳。普通なら、完全に第一線を退く頃ですが、神の民は勝手が違う。
神の言葉を預かる者は、その応答が求められています。私たち神の子も、同様です。
私たちも、ダニエルとは形式が異なりますが、神の言葉、福音を預かる身です。
私たちは、この神の言葉を実践して、その喜びと幸いを示し、神の領域を知らせる使命が与えられています。
とはいえ、難しいことをするのではなく、素直に神のみことばに信頼して歩むという地道な実践を、喜びをもって行うことが求められています。
神が預けてくださった聖書のみことばを、私たちはこの上ない宝物として受け取っています。
信仰に導かれた私たちは、成長してこの時代のみことばを預かる預言者でもあるのです。
神が与えてくださる人生がどれほどに価値のある事かを、私たちの歩みを通して人々に示してゆきましょう。